桃李歌壇  はる作品集

死海の黄昏

死海の黄昏
私は「ロトの妻」とよばれる
岩塩の柱にそっと触った
そばで、預言者のように
ハザーブが白い穂を風に靡かせていた

アブラハムの神が
ソドムとゴモラの地に
天から硫黄を降らせ
その民をことごとく殲滅したとき 
あなただけが戒めを破って
後ろを振り向いた

聖書には
ロトの妻としか書かれていない
その女性は従順な人だった

苦労に苦労を重ねた後で
多くの子供達を設け
やっと安定した幸福に手に入れたのに
そのすべてを捨てて
山に逃れなければならぬとは

アーモンドの花咲く春を
楽しみにしていたあなたに
どんな罪があったというのだろう

過去があなたに
地道な労苦の実りを与えたのに
そのすべてが焼き尽くされる日が来ようとは

岩塩の柱となるも留まりし千年の想ひに暮るる歳月 

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注:ハザーブ
 「新年の花」でイスラエルの荒野に咲きます。
  アーモンド
 「目覚めの樹」の意味で旧約聖書によく登場します。