死海の黄昏 私は「ロトの妻」とよばれる 岩塩の柱にそっと触った そばで、預言者のように ハザーブが白い穂を風に靡かせていた アブラハムの神が ソドムとゴモラの地に 天から硫黄を降らせ その民をことごとく殲滅したとき あなただけが戒めを破って 後ろを振り向いた 聖書には ロトの妻としか書かれていない その女性は従順な人だった 苦労に苦労を重ねた後で 多くの子供達を設け やっと安定した幸福に手に入れたのに そのすべてを捨てて 山に逃れなければならぬとは アーモンドの花咲く春を 楽しみにしていたあなたに どんな罪があったというのだろう 過去があなたに 地道な労苦の実りを与えたのに そのすべてが焼き尽くされる日が来ようとは 岩塩の柱となるも留まりし千年の想ひに暮るる歳月 ================================================== 注:ハザーブ 「新年の花」でイスラエルの荒野に咲きます。 アーモンド 「目覚めの樹」の意味で旧約聖書によく登場します。 |