斜面を削ぎ落とす低い姿勢の彼にはただひとつの遠地点しか見えない 時間は降下する彼の背後に空白を描き 彼の後ろには世界が存在しない くだりつつ前方を見据えるすべての意志は直線上の 力のかぎり肉体を解放するある一点にだけ存在を許されているかのようだ 彼は それが一瞬の集約のうちに起こることを知っている 我々の視界に立ち上がり 空間の壁を貫くという行為が そして 向かう風に抗しながら感じている 彼の肉体には限界があることを だが飛ぶのだ 果てしなく遠地点をめざして 飛翔よ我々はこの形に未来を見つける そして予感する あの燃え上がる雪面を あの溢れる歓喜の声を それは彼にしか見えない しかし 熱波は着地の瞬間に斜面を駆け上がっては我々の胸を貫き 銀箔の世界にへと消えてゆく |