2001 > 勁草に船影ぞなきロカ岬地果つところと吾も思ひき 2002 > 思い出が霧にようやく変わりゆく岬の果ての草のさゆらぎ 2003 > 夕光の海広がりぬ岬には悲しき秘話のあまた残れど 2004 > 流されてみようと思ふ夕光に穂わたが光を引きて流るる 2005 > 山なみをきはやかに浮き立たせ今はつ夏の日は暮れむとすなり 2006 > 山なみの向こうにつづくハイウェイ知らない世界へあこがれのせて 2007 > はつ夏の山辺彩りたよたよと雨に打たるるあぢさゐの花 2008 > かるがると走り根を越え総身に木漏れ日まとふ夏はじめかな 2009 > 方位計小さく振れて初夏の阿夫利嶺(あふりね)指すも丹沢三峰 2010 > 丹沢の霧の尾根道共にせし山友のひとり今はもう亡く 2011 > 面影のきみとこしへにうら若く年ふることのなきを淋しむ 2012 > あの頃は若かったねと言いながら互いの白髪見つめあってる 2013 > 白髪を染めて自分を誤魔化してますます加工の世となりにけり 2014 > 何がなし加工のあとの多すぎる野菜さえもが科学のモザイク 2015 > ハイブリッドなる穀物の席巻に種苗ビジネスいよよ栄える 2016 > 新ジャガの煮っころがしを皮ぐるみ口にほふれば生きてる実感 2017 > 片隅に茄子とトマトの苗植ゑて老母楽しき日課を得たり 2018 > 掘りだされてじゃがじゃがじゃがいも言ひぶんが何かありさうな顔をしてゐる 2019 > 親族に怪我人あれば蚕豆を摘みに帰省といふ人のあり 2020 > 豆の蔓伝いて大空へとゆける物語すれど鈍き梅雨空 2021 > 鈍色の雲と雲とのあはひより放射となりて光洩れくる 2022 > 荒梅雨の八十島かけて雲表を遠かけりゆく旅人われは 2023 > 傘を打つ雨音たのし荒梅雨の街は視線を高くしてゆく 2024 > 花柄の傘の中にてつい明るき花の影へと頬を向けたり 2025 > あぢさゐの濃きむらさきの色さして黄昏てゆく六月の宵 2026 > あじさいのはや色づいてゆく町に今夜の月は暈をもちたり 2027 > 雨降れば雨に染まって七変化これがわたしの生き様だから 2028 > 梅雨闇に白き十字のほの明かり日陰の花の愛(かな)し懐かし 2029 > かすかなる路傍の風にどくだみの夕陽にゆれし白き十字は 2030 > 十字架の夕日を浴びて輝けり湾に散らばる島のかずかず 2031 > 残照に映ゆる内海風はらみ小(ち)さきヨットの帆影となりぬ 2032 > 風のなかの椋は総身の葉を返しこの山里の白き帆となる 2033 > 丹沢に風立ち出でてうぅすらと睡りを覚ます山帽子かな 2034 > 開港祭の山下公園初夏の陽と潮風に映ゆ白き夏帽子 2035 > 眺望のひらけしところ背のザックおろして憩ふ心地良き風! 2036 > 霧渦巻く尾根道に立ち茫々と行く方知れぬ恋を思へり 2037 > 尾根道をゆけば眼下の雲海は日ざしにとけてほぐれてゆきぬ 2038 > 掴まんとすれど指間を逃れゆく霧のやうなるふたりのこころ 2039 > 山の端ゆさねさし相模霧深く切符売場はしづ心なし 2040 > 思ひ出のやうにほつほつくちなしの花咲きそめて震ふ心は 2041 > たそがれに残りて白く輝けるなほまぼろしかくちなしの花 2042 > たそがれに曲がったことのなき道をたどれば赤レンガ倉庫に出でぬ 2043 > 懐かしき声友の死告げたれば追憶といふ小径たどりぬ 2044 > 同窓会名簿に「亡」の字多くして思い出せない顔が消えゆく 2045 > しし厚き中年男ものいへば遠き白皙まなかひに立つ 2046 > まなかひの君溌剌と笑みたるも紫立ちし雨に翳りぬ 2047 > 紫陽花の雨の中より現われし赤い靴の少女の化身 2048 > 朝なさな露を纏ひて紫陽花は色あざやかに日々に満ちゆく 2049 > 書き貯めしノートの塵を払いつつ「この虫もまだ生きている」とは 2050 > 塵の中より出でてきし旧アルバム見て黒飴の甘さの如し 2051 > べるべっと褪せしALBUM埋め尽くすことも幸福確認なりき 2052 > アルバムの中のひとりは外つ国の季節の違う風に吹かれる 2053 > 外つ国に赴任せし間の近況を綴りてくれし手紙色あせ 2054 > あせてよし!という彼からのメール来て誠意の恋など今も実らぬ 2055 > うかれ猫はらみ猫いま親猫となりて余生のふりをしてゐる 2056 > 猫の方こそ大胆すぎたアプローチ彼に嫌われたのも当然 2057 > しばらくは猫になってもいい気持ち梅雨の晴れ間の風に吹かれて 2058 > 猫の仔のまどろみゐたる昼下がり風にさわさわ和毛(にこげ)靡かせ 2059 > ほんわかとまどろむ猫の愛しさよ野良の寿命はニ・三年といふ 2060 > 猫の背をなでる夫の手の動きそのやさしさはなによと思ふ 2061 > やさしさが思ひがけなきトラウマにそは橋叩くことのはじまり 2062 > 陸橋から見つめていたる夕焼けの下に広がる思い出の海 2063 > 神話などとうに崩れて幼らの心に傷の癒し難かり 2064 > 温かきうちに頬擦りしたまへと息絶えし子を前に医師いふ 2065 > いとけなき児らに刃は刺すものか痛みを知らぬ憎悪の果てに 2066 > 胸の奥深くに残る傷ありてときに疼くを知らぬ顔して 2067 > この場所から新しき旅立ちを誓う残る者の無念を力に変えて 2068 > 人体もまた小宇宙さればこそ光と闇の相剋の旅 2069 > ゲノム読むシャンポリオンよ秘められしファラオの呪ひ触るるなよゆめ 2070 > 判らない方がよいこともある人の造れぬ神秘のままに 2071 > DNA解析すればみなひとはミトコンドリア・イブなるといふ 2072 > 緑陰の枝巻きのぼる青き蛇イブをいざなふやうには見えず 2073 > 知恵の実にいざなはれゆく人間のこころ神さへ御するすべなし 2074 > 「パンツをはいたサル」が猿より偉いとはいつまで言っていられる、ヒトよ 2075 > 稼働せぬ〈もんじゅ〉の智慧を御すといふヒトの業には暴走なきか 2076 > 健忘の地球いへらく「人類は自然と癒えし疥癬のごと」 2077 > 本当に癒しが必要なのは宇宙飛行士の眼に青かった地球 2078 > キャンバスに青塗りこめし哀しみは薔薇の翳りにピカソ誘(いざな)ふ 2079 > 暴走もそりゃああったわ青春は哀しきものとやうやく知りぬ 2080 > 暴走の科学技術も思わざる人の手の優しさに帰りし 2081 > 生殖も治療も科学なりし世に手のぬくもりを忘るなと願ふ 2082 > Gene操作せる美男美女幅きかす世にながらへむ珍獣として 2083 > 予知できぬ世の中こそが面白し我も珍獣可笑しく生きん 2084 > 100万回生きた猫さえ100万回目の満ち足りし生で終えたり 2085 > 千年を経てみづみづしき恋の歌 ひとは悲しき恋するものぞ 2086 > 顔見えぬ人にも人は恋すべし 仮想の国の歌垣ぞよき 2087 > 目礼を重ねし四季の朝なさな路地ゆくひとの名は知らねども 2088 > 名も知らず路傍に咲ける雑草(あらくさ)を愛でつつ歩むはつ夏真昼 2089 > 夕づけば近所の奥さん集まって花談義する路傍の花壇 2090 > さう云へばてんたう虫のやうなのが此処に一匹居たのだつたか 2091 > 別荘地の入り口に立つ看板に飾りのようなてんとう虫ひとつ 2092 > 看板に偽りのやうな綺羅まとひ空漠論議低きに流る 2093 > どの社説みても「論議を期待す」と書けり定見なき戯論さへ? 2094 > わんぱくが正座しているようだという四角いスイカ15000円 2095 > 半島の背中を行けばごろごろとスイカころがる惑星の海 2096 > 太陽を一周するに165年海王星の四季とは如何? 2097 > 遥カナル太陽ノゾム常闇ニマダ見ヌ春ハ疾ニ過ギケム 2098 > 常闇の宇宙をめぐる星辰よ過つなかれその運行を 2099 > わたくしの中の宇宙はそよ風のいつも通えるすき間をもちたい 2100 > 日の神の馬車御しがたくパエトンはゼウスの雷に打たれしといふ |