桃李歌壇  目次

きさらぎの書棚

連作和歌 百韻

2801 > きさらぎの書棚ゆいづる百鬼園狂ほしきまでの回想読みぬ 
(素蘭)
(214 0002)

2802 > 狂ほしく恋ひて叫べる牡猫はおのが姿ぞ 男性諸君 
(ギオ)
(214 0117)

2803 > 埋み火の残りし灰のぬくもりが今は小さき炎となりぬ 
(重陽)
(214 0516)

2804 > 赤々と炎は燃えつぐ雪嶺を四囲にめぐらす塩湖の町に
(登美子)
(214 2321)

2805 > クムランの洞窟ふかく死海文書あり永遠の黙示あらぬや 
(素蘭)
(215 0128)

2806 > 出土せし木片の文字にいにしへの民のたつきの偲ばるるかな
(登美子)
(215 2316)

2807 > さまよへる湖へヘディンの漕ぎゆきし一艘の舟偲ばるるかな 
(素蘭)
(216 0142)

2808 > 巌上の妖しき影を見るなかれ舟人誘ふ歌聞くなかれ
(登美子)
(216 2329)

2809 > 断崖ゆ乙女の歌声聞こえ来と男ら惑ふは悲しき性かも
(ギオ)
(217 0047)

2810 > 魔王ーそのアリアやさしく歌ふゆゑ奪はるるもの少年と呼ぶ 
(素蘭)
(217 0105)

2811 > ビードロをポコペンと吹き少年はガラス細工の心を試す
(登美子)
(218 1701)

2812 > 形神は蒼きかげりの玻璃に似てくだかれやすき少年の日々 
(素蘭)
(219 0115)

2813 > かーごめかごめ後ろの少年はいついつ出やる 木の芽のときぞ
(ギオ)
(219 0227)

2814 > 春の夜のたふときあはれ求めなば宵あけぼのの中といふらむ 
(素蘭)
(220 0059)

2815 > のりものに座すやまどろむ吾にとり春眠なべて時をえらばず 
(重陽)
(220 1436)

2816 > 鶯の初音聞きてむ一雨の降るごと春のめざめにければ 
(素蘭)
(221 0114)

2817 > 朝まだき渚の春の小波は散りゆくさまに寄するがさまに 
(重陽)
(221 0906)

2818 > 春の夜の月に誘はれ生れいでしおのが影さへ持たぬ白魚
(登美子)
(221 1909)

2819 > 白魚の白き一寸かなしびてわがまなうらにみどりご泳ぐ 
(素蘭)
(222 0105)

2820 > 春磯の光まとひし鮎の稚魚(こ)はただよふごとくいのちたのしぶ 
(重陽)
(222 0514)

2821 > 楽しみは寡黙な息子が恋をして明るく笑ふ声を聞くとき
(登美子)
(222 1957)

2822 > ギリシアの哲学以前文字ありき饒舌なるものΣと呼びき 
(素蘭)
(222 2250)

2823 > 饒舌の季節ふたたび巡り来ぬ 花蜜得むとて目白ら騒げり
(ギオ)
(223 0214)

2824 > 群れすずめ追ふ椋鳥に四十雀とどめは目白朝の餌場は
(重陽)
(223 0824)

2825 > 物見高きひと集まりぬめづらかな鳥の渡れるあつかひ草に 
(素蘭)
(224 0119)

2826 > 庭隅のひとつ置かれし陶の椅子巣篭もりせんと四十雀とふ 
(重陽)
(224 1110)

2827 > 容るる水なき土器のひとつある冬ざれにける庭の一隅 
(素蘭)
(224 2037)

2828 > 天地にまみえし古人の驚きを埴輪はまろき口あけてゐる
(登美子)
(224 2138)

2829 > 雪間わり角ぐむ草木に驚きの声あげけらし 縄文の民は 
(ギオ)
(225 0228)

2830 > 葦叢は角ぐみにけり地にありてもゆることなきおもひ草かも
(登美子)
(225 1856)

2831 > 道の辺の雑草芽ぐみつつあらむ犬ふぐり咲く春は来にけり 
(素蘭)
(226 0030)

2832 > 瑠璃色の星といふ人あるめれど数ならぬ身の犬ふぐりかな
(ギオ)
(226 0049)

2834 > 数ならぬ身に止みがたき帰心ありこの朝明けを鴨渡り行く
(登美子)
(226 2314)

2835 > 数ならぬ身とふ法師のなかなかに名にこだはりてあはれきさらぎ 
(素蘭)
(227 0146)

2836 > いく筋も結露の伝ふきさらぎの窓を過ぎりてゆく白い鳩
(たまこ)
(227 1111)

2837 > くぐもれる朝の光は如月のまたくぐもりつ春をもてくる 
(重陽)
(227 1145)

2838 > くくもりて睦月如月白蓮は剖るるまでの夢にこもれり 
(素蘭)
(228 0045)

2839 > 垣の内に木蓮つぼみを育みて春のうれひを包まむとやする
(登美子) (228 0608)

2840 > 晩年の蘆花の庵(いほり)に高く咲き空を真白くおほふ木蓮
(たまこ)
(228 0915)

2841 > 真白なる春の空より降る針ははらりはらりこ雉の目を刺す
(やんま)
(228 1010)

2842 > 乳色のヴェールのような春空を群れゆく鳥の声も乳色 
(重陽)
(228 1550)

2843 > 鳥曇・霞・陽炎・春の闇 朧なることうるはしからむ 
(素蘭)
(31 0112)

2844 > 浮雲の縁も仰げる老い父も朧おぼろに三月に入る
(たまこ)
(31 0919)

2845 > 弥生その呼名やさしや遠山にかかる残月透きとほりたり
(登美子)
(31 1838)

2846 > 囀りを聴きなす耳も春弥生切ないか切ないか切ない
(やんま)
(32 0539)

2847 > 古雛しろき面輪に袖あててよよと泣きをるおぼろ夜の夢
(登美子)
(32 0851)

2848 > 霧雨が降つてゐるのかと窓によりわたしが泣いてゐると気づきぬ
(たまこ)
(32 1712)

2849 > 白酒を濯ぐ花守ここにあり春夜桃李に宴する序  
(絵)
(34 0942)

2850 > 濯ぎたまふ白酒ちひさき盃にうけて宴の末座に連なる
(登美子)
(34 1021)

2851 > 正座することを覚えし幼子のその膝こぞう雛壇のまえ
(たまこ)
(34 1722)

2852 > 唾つけて「ちちんぷいぷい痛くない」涙が途中で乾く幼子
(登美子)
(34 2253)

2853 > 心を擦るようにふる雨こんな日は私が私に「ちちんぷいぷい」
(たまこ)
(35 1533)

2854 > 過去などは埋めてしまおう立ち並ぶビルの間の洒落た舗道に
(登美子)
(36 0646)

2855 > 「あんなことこんなことあったよね」と歌う卒園ちかき子にもある過去
(たまこ)
(36 1603)

2856 > 勝敗はいまだ混沌この次のコーナーこそはと身を乗り出だす
(登美子)
(37 2243)

2857 > 四つ角を曲がる夫に手を振つてそれから後はわたしの時間
(たまこ)
(38 0931)

2858 > 四方より来たりてすれ違ひゆくのみのスクランブルといふ交差点
(登美子)
(38 1951)

2859 > 水色の風でありたいすれ違ふ人の記憶にのこれるならば
(たまこ)
(39 0710)

2860 > さり気なく振舞ふ心にしっかりと爪立ててゐる双頭の鷲
(登美子)
(39 1824)

2861 > 春雷がとおく轟き家猫が衝動的にその爪を研ぐ
(たまこ)
(310 1542)

2862 > 黎明に春雷四方にとどろきてけふまた楽し競べ歌なぞ 
(重陽)
(311 0530)

2863 > 揚げ雲雀の声のふる野のつくしんばう背競べしつつすんすん伸びる
(たまこ)
(311 0855)

2864 > 浅き春まだき潮に鮎の子は日に増し親の姿に群れり 
(重陽)
(311 1433)

2865 > 若鮎のやうな心に戻れさう春の小川に足浸しつつ
(たまこ)
(311 1642)

2866 > せせらぎは光の色に流れゐて光を散らす白き指先 
(重陽)
(311 1933)

2867 > 噴水の光の束の向かうからわたくしを呼ぶ声もまぼろし
(たまこ)
(312 0805)

2868 > 春の夜のまぼろしとみて止まましを何とて影の立ち出づるらむ
(登美子)
(312 0827)

2869 > われを呼び止める気配にふりむけば山茶花の紅の崩るるところ
(たまこ)
(312 1043)

2870 > 見返れば夢二のをんながゐるやうな欄に柳の糸がなびけり
(登美子)
(312 1325)

2871 > 夢二の絵のをんなのなで肩柳腰こんなをんなはほんとは強い
(たまこ)
(312 1748)

2872 > 青柳のしだりをみだす春の風ふけば心もざわわとさわぐ 
(ぎを)
(313 0050)

2873 > 新しいスコップを買おう吹く風にかすかにものの芽の匂ひする
(たまこ)
(313 1754)

2874 > 次に吹く風にたぐひて飛び立たん鳥さへ北へ帰るといふ春
(登美子)
(313 2150)

2875 > 春なれやわかるることの切なくて野辺をありけば鳥雲に入る 
(ぎを)
(314 0137)

2876 > 春弥生の国会中継「パンドラの箱」は開いたと言ふ声がする
(たまこ)
(314 0803)

2877 > スケープゴート屠るといへどパンドラの箱の底なる希望は見えじ
(登美子)
(314 1937)

2878 > 白山羊さんも黒山羊さんもお手紙を食べて結局なにがなんだか
(たまこ)
(314 2232)

2879 > いにしへの懸想の文もEメールも違はずまだ見ぬ恋にぞ燃ゆる
(ぎを)
(315 0133)

2880 > わたの原遠く京を恋ふ人の言の葉あはれいまに残れる
(登美子)
(315 1836)

2881 > 告げられぬままの言の葉 鈴掛の枝にゆれゐる去年の木の実
(たまこ)
(315 2123)

2882 > 鈴懸の上枝あをめば春の風やさしく落としぬ実らぬ恋を
(ぎを)
(316 0116)

2883 > 白波の春一番の浜に立ち忘れたきこと風に砕けり 
(重陽)
(316 0553)

2884 > 白波にうそぶく影を数へれば紅き蹴出しも交じりて五人
(登美子)
(316 1613)

2885 > 濃紫のその影の中にしんとして春の夕べの一つの小石
(たまこ)
(316 1939)

2886 > 物言わぬ背中に向かい問いおればかすかに揺れる肩の曲線
(ジャスミン)
(316 2319)

2887 > 桜花われにはかしまし もの言はぬ野辺の花こそたづねてゆかめ 
(ぎを)
(317 0227)

2888 > 淡あはと柊咲けりだいすきと言へば消えいりさうな風情に
(たまこ)
(318 2317)

2889 > 花愛づる群衆花を知らざるや 居敷のそばに菫ぞ咲ける
(ぎを)
(319 0057)

2890 > 抜けぬ棘包み込みつつ年輪を重ねゆくなり野の花のごと
(登美子)
(319 0727)

2891 > 花の雲抜く観覧車はろばろと汝が年の輪もミレニアム越ゆ  
(絵馬)
(320 1623)

2892 > 母と乗り君と乗りいま子らと乗る永久に回れよ思ひ出の籠
(たまこ)
(320 2050)

2893 > 白鳥が渡るよニルスの夢乗せてオーロラゆらめく極北の地へ
(登美子)
(320 2327)

2894 > 凛然と黒き水面をすべりゆく白鳥みれば疚しや我ら
(ぎを)
(321 0043)

2895 > 長旅をしてきたやうな日除帽 飄飄と春の街ゆく翁
(たまこ) 
(321 1016)

2896 > 遠くからその人としる菅帽子ひねもす竿と春とうたた寝
(重陽)
(322 0513)

2897 > 春風邪の微熱に昼をまどろんで一切れの雲のやうな感覚
(たまこ)
(322 1011)

2898 > なにものか大きなものに抱かれてふわっと連れて行かれる錯覚
(ジャスミン)
(322 1027)

2899 > じゃじゃ馬がすっぽり抱かれて泣いたげな涙は女の武器にあらねど
(登美子)
(322 1712)

2900 > 花の山わきたるさまににぎはひて花のなみだや一陣の風 
(重陽)
(323 0456)