2901 > 花ならば満開の前に妹は逝きたり遺影に花のごと笑む 2902 > 初花を差すをさなごの指先の紅く透けたる朝のさ庭辺 2903 > 振り返りふりかへりわれに振りし掌が風に舞ひ散る木の葉に見えし 2904 > ふりむくをわれ厭ふれど去年の花思へばともに見し人恋し 2905 > 過去に続く道の長手を焼き滅ぼし飛び立つべしと地に花は満つ 2906 > げに長くわが寝つるかもむめ櫻こきまぜて咲く春に目覚めつ 2907 > 花冷えの庭に目蓋を閉じたまま動かぬ蛙なにを占ふ 2908 > 目つむれば落花流水おろかなる迷ひといへども花はえ忘れじ 2909 > 街川の水面を流るる桜花 追つてはかなし海へ着く夢 2910 > ただ1羽黄金の舟のゆりかごに揺られて月夜の海のカナリア 2911 > ソプラノの悲恋のアリア唄いしがプリマドンナはいかにおわすや 2912 > 過ぎし日のふと浮かびくるさえあるも何処か深く出で来ぬもあり 2913 > うたかたの浮かぶも消ゆるも行く川の流れのままに鴨は水脈引く 2914 > 赤信号の前に溜まりゆく人間の藁くずにも見え泡沫にも見え 2915 > 波の底にめでたき都の候ふと幼帝抱きまゐらす尼君 2916 > 琵琶法師の声かと聞きぬ晩夏(おそなつ)の寂光院のひぐらしの声 2917 > 如月のこよひ望月花満ちていにしへ人の偲ばるるかな 2918 > 転生を何にねがひゐし君ならむ満月の夜を鳴く木の葉木菟 2919 > 逃れ得ぬDNAを負はされて立ち上がらんとすクローン牛は 2920 > クローンてふ怖ろしきもの聴きし夜に挿木匂へる沈丁の花 2921 > 空豆の莢からでるのは空豆で当然といふことは退屈 2922 > ワイはオトコでおまえはオンナ呵々大笑の姥桜 2923 > 花の下に乱反射する笑ひ声たのしい時も精一杯に 2924 > 大いなる夢追ふ男の挑戦に胸迫り見るプロジェクトX 2925 > アラスカの雪を頭に野天風呂地の軸廻す吾此処にあり 2926 > 砂の海越えて火の山なほ越えて去りにしひとのゆくへ知らなく 2926 > 真面目すぎは疲れるだけよ地軸だつて「休め!」の角度に傾いてゐる 2927 > ねぇ少し休みましょうか足元に小さな花がほらこんなに咲く 2928 > たんぽぽの穂綿の白いミニ宇宙 小島の廃屋跡をうずめる 2929 > 火の山は長閑に眠る白銀の煙たなびく行方知らずも 2930 > やすらけく眠るがごとし不尽の山覚むれば烈しき裁きの日かも 2931 > けはひする錦ヶ浦の花のころ花にたゆたふ浦は好まし 2932 > 日々を新たに生きむ花の浦けふ白冨士の生れて麗し 2933 > 好ましき春はこの春花の春好きいでたちに春は熟れゆく 2934 > 春の夜のかくも激しく降る雨をためらひもせで君が来ませる 2935 > 戀すてふ我眼を洗ふ春の雨つもれば千重の波とはなりぬ 2936 > わが心ふりみふらずみ春の夜の迷ひの雨に濡れゆけるかも 2937 > 柿若葉の緑きらきら滴してわたしの庭は雨上がりです 2938 > 鎧戸を繰れば若葉はきらきらと復活祭の朝の鐘の音 2939 > 美しく彩られたる染め卵異国に在りしイースターの思い出 2940 > 忘れえぬひと日にならむ浜大根の花咲く道を岬へあるく 2941 > 二人して岬の虹を仰ぎけり十字を切りて祈る吊り橋 2942 > 海峡を渡る吊橋夜を灯しフルムーンの旅迎へくれたり 2943 > ぬばたまの闇より列車の現はれ来て窓べに悩む若き顔や我 2944 > ひた走るシベリア横断鉄道に虜囚となりし人ら思いて 2945 > こくりこの野をひた走る恋のひと心のつばさに吾は天翔る 2946 > 花びらの皺のばしつつ罌粟がさく神のノックの少し早すぎて 2947 > 緋の色の大地を渡る西風にジャンヌ・ダルクは馬洗ひをり 2948 > 花色の大地を走る駿馬らも霞みかすみて野にゆららぎぬ 2949 > 若者が奔馬となりし世はすでに歴史の色をまとふひとこま 2950 > 昔むかしをもう語りません一世紀生きたる鰐は脱力状態 2951 > 進化てふ文字頑なに消し去りて種の起源読む春炬燵かな 2952 > マンボウのご先祖はフグ 尾を捧げ大海にでる夢を叶へた 2953 > 世のことの夢のとぼしき境涯にあふれし夢の昔をおもふ 2954 > 花冷えの路上に積もる塵芥も見果てぬ夢を追いて足掻かん 2955 > 叶はざりし夢のむくろを積み重ねくれなゐ深く牡丹花咲く 2956 > 散りてなほ花の昂ぶりおさまらず卯月二十日のやはらかき雨 2957 > 帰らうよ子取りがくるよ菜の花の野原の果てに月も浮かびぬ 2958 > 菜の花の群だち咲ける川原べは懐かしきかな眼も晴れぬ 2959 > 海原をかける光のやはらかき好ましきかな春の磯辺は 2960 > 朝焼けに 煌く海の 眩しさに 寒さも忘れ 白砂踏みけり 2961 > ともに見るはずなりし一人を思ひをり波照間島の海の朝焼 2962 > 一輪の深き淵なり朝顔は閉づることなき汝が夢の跡 2963 > 暁の小暗き夢路に見しひとのおもかげ去らぬ夕まぐれかも 2964 > 散りはてし桜の老樹に風わたり狂ほしき夢のあとのやすらぎ 2965 > 戯言と知りて睦言交わしては射す日を憾みもらす繰言 2966 > くり言もたはぶる言もいつの日か重ねかはすや真言と成らむ 2967 > 真実を知りさへせねばかの王妃も毒リンゴなど作らなかつた 2968 > ある晴れた日に突然に吾に渡す汝の林檎は輝きにけり 2969 > 何もかも放り出したい昼下がり青いりんごをかりりとかじる 2970 > 日常を抜けむ私の窓として真昼に開く世界地図帳 2971 > 日常は即終末と定まりぬ地図捨て去りしヨルダンの西 2972 > 終わり無き世の海泳ぐ誰も皆慰めに咲くひとひらの花 2973 > 季うつり山笑むさまも好ましき朝の斜光に破山一笑 2974 > 湘南の光の朝の美しきかな弥生卯月は山も運歩す 2975 > 萌えるとはどんな感じぞ大椋の総身よりちくちく若葉萌え出ず 2976 > この胸のかすかなゆらぎは恋の芽の萌ゆるにやあらむ畏れつつ抱く 2977 > ため息とつのる想いは昇華して立ち上りしは恋の陽炎 2978 > 人は皆背に翼持つイカロスとなりて旅たつ父母の家より 2979 > 春の駅に電車を待てばわれの手の青春切符を風のさらへり 2980 > 夏野菜の植付け済めば名古屋から青春切符で横浜へも来よ 2981 > 鈍行の夜行列車に傷心の一人旅したあの頃のこと 2982 > 去るものは追はじと決めて安き身に紅の牡丹の崩れゆく音 2983 > 口紅の色ことさらに濃くさせば迷えることも決まる気がして 2984 > 行く行かぬ迷ひて見れば風なきにかそけく揺るる鈴蘭の花 2985 > つと触れし茅花の綿毛が飛んでゆくわたしの夢を叶へるために 2986 > 少年よ大志を抱けクラークの碑に鈴蘭の匂ふ学び舎 2987 > 裏山に風光るころ志ならずといへどいざ帰りなん 2988 > 裏富士の大きく深く抱くように霧湧き立つや山中湖畔 2989 > 湖のほとりをめぐる夜2人月が照らすは逡巡の恋 2990 > よきことのうれふることのめぐるなむ人恋ふことのせつなきことの 2991 > 春の夜にひそかにゆきしその人のおもひ枝垂れて花にまつはる 2992 > さなきだにおもひ多かる春の日をいかに過ぐせとひとは旅行く 2993 > 多摩川の鉄橋渡るとき鴨の漂う見ればさすらいにけり 2994 > 車窓より見える河原の大きな木その名が知りたい、ああ旅ごごろ 2995 > ワンルーム片付け終えて振り返る長き旅より今帰りなん 2996 > 冠雪の黒姫山が見えてきぬあとひと駅で故郷の街 2997 > 塀の外地に重なりし赤椿長き旅路か開かぬ雨戸に 2998 > 加賀の寺つひの旅路や現身は黄泉に墜つるも侘助の花 2999 > 圧倒的な菜の花のなか窒息をしそうでわたし歌詠うなり 3000 > 美しきやまとことばのあやなせる桃李の苑に集ふさきはひ |