桃李歌壇  梅足作品集

漢詩の小道

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その1

 ようこそ「漢詩の小道」へ
●心に残るあのフレーズ。
 ちょっと下の句を覗いて見てください。
春宵一刻値千金…「春夜」 蘇軾
歳月不待人…「雑詩」 陶淵明
人生七十古来稀…「曲江」 杜甫
遺愛寺鐘欹枕聴、香爐峰雪撥簾看…「重題」 白居易
国破山河在、城春草木深…「春望」 杜甫
一将功成萬骨枯…「己亥歳」 曹松
捲土重来…「題烏江亭」 杜牧
人生感意気、功名誰復論…「述懐」 魏徴
朝辞白帝彩雲間…「早発白帝城」 李白
青山一髪是中原…「澄邁驛通潮閣」 蘇軾
葡萄美酒夜光杯、(中略)、
古来征戦幾人回…「涼州詞」 王翰
いかがですか。何か、こう、心に響くものを感じませんか。

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●私の漢詩との関わりは
 高校の漢文の時間の睡眠学習の成果(笑)として、これだけは私の耳に残っていると
いうものがあります。
 「陽関三畳」とよばれる、「西の方、陽関を出づれば、故人(知己の意)なからん。
なからん。なからん。故人なからん。」 と先生が吟詠してくださったフレーズだけ
は、今でも心の奥に響いています。
 この、心に刻まれた芽が、NHKの「人形三国志」で発芽し、「漢詩紀行」を肥やし
に成長したといった感じです。
 そして、唐詩選とか中国名詩選とか読んで、さらには、作詩にまで足を踏み入れて
います。
 初めて作詩したのは、去年(平成八年)の秋です。まあ、こんな駆け出しの「初学」
の身で「漢詩」の講釈なぞ、大それたことですが、少しでも、多くの方に漢詩を作る
楽しみを味わって頂きたい、という一心から 、キーボードを叩いている次第であり
ます。
1...漢詩の入口
●まず、一つ、私の好きな漢詩を見て下さい。
作者 李白
題「早(つと)に発(た)つ。白帝城」

|軽|両|千|朝|
|舟|岸|里|辞|
|已|猿|江|白|
|過|声|陵|帝|
|萬|啼|一|彩|
|重|不|日|雲|
|山|尽|還|間|

[私達日本人の読み方]
朝(あした)に辞す。白帝、彩雲の間、
千里の江陵、一日にして還る。
両岸の猿声、啼いて尽きざるに、
軽舟、已(すで)に過ぎる。萬重の山。

 この詩は、左遷された李白が途中で呼び戻されて、飛んで返る様が、「彩雲」「一
日にして」「軽舟」とい う言葉によく現れています。
 又、音読みで棒読みしても、なんとなく、流れるような感じがしませんか。
 そもそも漢詩は昔の中国の歌詞だったのです。そして、私達日本古来の和歌や俳句
と同じように、実は漢詩 も五七五なのです。

もう一度、李白の詩を見て下さい。

|軽|両|千|朝|
|舟|岸|里|辞|
|已|猿|江|白|
|過|声|陵|帝|
|萬|啼|一|彩|
|重|不|日|雲|
|山|尽|還|間|

 漢字の数は縦に七文字ですね。
 中国の人は、私達のような読み方ではなく、上からそのまま発音しますから、七組
の漢字の音で一列が成り 立っています。
 この一列を「句」と呼びます。
 このように一句が七文字で四句からなる漢詩を七言絶句とよびます。

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●次の杜甫の「春望」は、一句が五文字で八句からできており、このような漢詩を五
言律詩とよびます。

|渾|白|家|烽|恨|感|城|国|
|欲|頭|書|火|別|時|春|破|
|不|掻|抵|連|鳥|花|草|山|
|勝|更|万|三|驚|濺|木|河|
|簪|短|金|月|心|涙|深|在|

[私達日本人の読み方]

国破れて、山河在り。
城、春にして草木深し。
時に感じては花にも涙をそそぎ、
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす。
烽火、三月に連なり、
家書、万金にあたる。
白頭掻けば、更に短く、
渾(すべ)て簪(しん)に勝(た)えざらんと欲(ほっ)す。

こうしてみると、漢詩も中国の人にとっては、私達の和歌や俳句の調子と同じ七五調
だということが解りま すね。

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●ここで、簡単に漢詩の種類をまとめておきます。
■絶句(四句)−七言絶句、五言絶句
■律詩(八句)−五言律詩、七言律詩
これらを総称して「近体詩」とよびます。
他にもあるのですが、興味のある方は専門書をどうぞ。

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