桃李歌壇  梅足漢詩集

漢詩の小道

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その3

 3...作詩はクロスワードパズル??
 唐の時代に古の名作を整理研究したところ、平仄の組み合わせに黄金律とも言うべ
き一定の旋律があること を発見しました。この発見のおかげで、これに従って漢詩
を作れば、私達も古えの天才と同じ旋律を奏でる 事ができるようになったのです。
 囲碁・将棋で言えば定石のようなものですね。定石は一手一手が必然の究極の手順
ですよね。
 話しを漢詩に戻しますと、この平仄の組み合わせというものは、クロスワードパズ
ルのように、縦横に関係 付けされています。
 タテのカギとヨコのカギをそれぞれ見ていきましょう。果たして解けるでしょうか


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●その前に、全体のカギについて触れておきます。
[同字の禁止]
これは、同じ文字を使ってはいけないという規則です。
 私の「雪間の草を見せばや」の詩で、やむを得ず「客」という字を二度使っており
ますが、ある現代詩を創 っておられる方から、「二度使わないほうがすっきりす
る」という指摘を頂きました。 これがただいまの「同字」の禁止の規則に相当しま
すね。ご指摘頂いた方の鋭い感性に驚嘆致しました。 漢詩の規則は決して、縛る為
にのみあるのではなく、よりよいものができる為にあるのだと、つくづく感じ た次
第です。
 但し、例外として、「人自傷心水自流」のような、一句の中に対句のあるもの、こ
れを「句中対」といいま すが、このようなものと、「鞭声粛粛夜渡河」のような
「粛粛」、これを「畳字」といいますが、このよう な例外は規則として許されてい
ます。但し、「畳字」はよく検討して使わないと軽薄な詩となってしまいま す。
[句の中の文字のつながり]
 七言絶句の一句、二字二字三字(最後の三字は、二字と一字とも言われていますが
厳密ではありません)とい うまとまりで構成されています。当然、五言絶句の場合
は、最初の一組はありません。
 これを知らない時に、「子年年不同、吾歳歳不改」という句を作って、本人は「子
は年年同じからず」のつ もりだったのです。ところが、ある普通の方から最初の二
字を一まとめにして解釈されて、「子年(ねずみどし)の句かと思った」と言われ、
えっと思いました。「二字二字」というまとまりは人間の自然な感覚によるものなん
だなと感じました。
 この「二字二字」というのは、思い巡らしてみますに、「陰陽」というものに大い
に関係があるように思い ます。
 「陰陽」を数字に置き換えますと、「一、三、五、…」の奇数が「陽」の数、
「二、四、六、…」 の偶数が「陰」の数です。九月九日を「重陽の節句」と言うの
はここからきているのですね。
 それで、奇数は不安定で動きがあるから「陽」、偶数は安定していて動きがないか
ら「陰」とすると、これ でいくと、偶数番目で一つ落ち着いて区切り、また、次の
偶数番目で、一区切りとなっているように考えられます。そして、句の最後は奇数で
終わっており(昔は四字の句がありましたが、変化に乏しいということで、あまり作
られなくなったようです。)、次の句へ続く、というか、これで終わりではない、余
韻を残しつつ次へ移るのだ、と説明がつくように思います。

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●それでは、タテ・ヨコのカギについて見てみましょう。
(1)タテ(一句の中)のカギ
七言絶句の場合、○:「平声」、●:「仄声」とすると、例えば以下のような場合
例|4|3|2|1|
一|●|●|○|○|
二|●|●|○|○|
三|●|○|●|●|
四|○|○|●|●|
五|●|●|○|○|
六|●|●|○|○|
七|○|○|○|●|

★[二四不同]:二字目と四字目は平仄が逆であること。
★[二六対]:二字目と六字目は平仄が同じであること。
★[下三連禁]:下の三文字が同じ平仄なのはよくない。(例2)
★[孤平の禁]:平字一字が仄字に挟まれているのはよくない。(例4)

(2)ヨコ(句と句)のカギ
★[押韻]
 押韻とは、「上平声」「下平声」のそれぞれ、十五ずつ(例「一東」)のどれか一
つのグループに属する文 字で句の末尾の字を統一することです。先ほどの李白の詩
では「山、還、間」がそれにあたり、杜甫の詩では「簪、金、心、深」にあたりま
す。

|軽|両|千|朝|
|舟|岸|里|辞|
|已|猿|江|白|
|過|声|陵|帝|
|萬|啼|一|彩|
|重|不|日|雲|
|山|尽|還|間|


|渾|白|家|烽|恨|感|城|国|
|欲|頭|書|火|別|時|春|破|
|不|掻|抵|連|鳥|花|草|山|
|勝|更|万|三|驚|濺|木|河|
|簪|短|金|月|心|涙|深|在|
◎を押韻とすると、各句の最後の文字の規則は以下のようになります。

五言絶句:◎●◎●(二句と四句)
七言絶句:◎●◎◎(一句、二句、四句)
律詩:◎●◎●◎●◎●(二句、四句、六句、八句)
 ほぼ偶数句で押韻しているというのも陰陽が関係しているように感じられます。
又、韻に使用したグループの漢字を他の部分で使う(これを「冒韻」とよびます)こ
とは禁じられています 。
★[粘法]
 各句の中の一つのまとまりとして一段落する、二字目、四字目、六字目の平仄がヨ
コの関係で以下のように なるよう規定されています。
「○●●○」又は、「●○○●」
そして、二字目が
「○●●○」を「平起式」
「●○○●」を「仄起式」
とよびます。
★[起承転結]句のそれぞれの意味の関係
「起句」=語り起こし。
「承句」=「起句」の内容を広げる。
「転句」=発想の転換。
「結句」=全体のまとめ。
ここの説明でよく使われる頼山陽の一節を紹介します。
「起句」京の五条の糸屋の娘。
「承句」姉は十七妹は十五。
「転句」諸国諸所大名は弓矢で殺す。
「結句」糸屋の娘は眼で殺す。
又、演歌の「王将」の一節も起承転結になっています。
「起句」明日は東京へ出て行くからは。
「承句」何がなんでも勝たねばならぬ。
「転句」空に火がつく通天閣に。
「結句」俺の闘志がまた燃える。
★[律詩(八句)の対句]
「律詩」においては、
三句と四句
五句と六句
がそれぞれ「対句」になっていることが規則になっています。
 「対句」とは、相対する二句が文法的に同じ品詞で、且つ、意味が対称になってお
り、「二句一解」として 一層趣きを醸し出すものです。
 例えば、最初にもご紹介しました以下のようなものです。
遺愛寺鐘欹枕聴
香爐峰雪撥簾看
★[選択の基準]

 以上のようなクロスワードパズルとも言える縦横の関連を保ちつつ作詩するわけで
すが、いろいろパターン があり、どのようなパターンを選択すればよいのか迷われ
る方も多いかと思います。 そこで、大まかな選択の基準を示しておきたいと思いま
す。
 まず、七言か五言かということですが、古来、叙事詩には七言が、叙情詩には五言
が向いていると言われて います。
 又、最初は、七言絶句から練習するのがよいとも言われております。五言で言いき
るには言葉を厳選しない といけませんから。
 次に、絶句か律詩かですが、これは、特に、何がどうだとは言われておりません。
私はただ、言い足りるか 否かで選択しています。(ちょっと軽薄に過ぎるかも。何か
選択基準があれば教えて下さい。)
 最後に、「粘法」で出てきました「平起式」か「仄起式」かですが、統計的には、
七言絶句は「平起式」が 多く、これを「正格」とよび、五言絶句は「仄起式」が多
く、これを「正格」とよんでいます。そうでないものは「変格」とよびます。でも、
[句の中の文字のつながり]のところでお話ししましたように、七言絶句は二字二字
三字というそれぞれのまとまりで構成され、五言絶句の場合は、最初の一組がないも
のだとすれば、どちらの「正格」も句の終わりの五字は、ほぼ同じ平仄になります
ね。 従って、何らかの響きの関係でこのような統計結果になっているように思いま
すので、特にどちらでもよい 場合は、それぞれの「正格」を選択されるのがよいか
と思います。
 又、絶対書きたい言葉(「眼字」といいます)を決め、これを配置する場所から逆に
「平起式」か「仄起式 」を決めるということもあるかと思います。私の場合はほと
んどこれです。
 このようにして漢詩のクロスワードパズルを解くことができれば、あなたも、今日
から李白と同じ黄金律で 漢詩を創ることができるようになるわけです。
★[平仄・押韻のまとめ]
○=平声
●=仄声
◎=押韻
△=平仄不問。但し、[下三連禁][孤平の禁]に注意。
七言絶句
「平起式」
△△△△
○●●○
△△△△
●○○●
△△△△
○●●○
◎●◎◎
「仄起式」
△△△△
●○○●
△△△△
○●●○
△△△△
●○○●
◎●◎◎
五言絶句
「仄起式」
△△△△
●○○●
△△△△
○●●○
◎●◎●
「平起式」
△△△△
○●●○
△△△△
●○○●
◎●◎●
 尚、律詩は絶句が二つ並んだ形になります。

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